

翌朝、私たちは伊香保温泉を出発し、お昼過ぎに沼田に入りました。唐沢玄蕃と合流して沼田城の前まで来ると、出迎えてくれたのは上杉輝虎本人のようでした。
「道澄、待っていたぞ!」
「輝虎殿、わざわざお出迎え頂き、申し訳ありません」
私はそう応えて深く礼をしました。
「久しぶりだな。会いたかった」
そう言って輝虎殿が近付いて来て、人目を憚らず私にハグして来ました。
私は一瞬反応に困りましたが、二人の関係を考えて腕を輝虎殿の背に回して輝虎殿の胸を受け止めました。その身体は軍神と呼ばれている武将とは思えないほど華奢で柔らかでした。
ただ、再会を喜ぶハグにしては輝虎殿はなかなか私から身体を離さず、コノハさんと二郎に限らず周囲の人たちが面を食らっているのが分かりました。
「ふふ。そういう事ですか」
と吹き出しそうになっている千代女の呟きが聞こえました。
私たちは城内に入ると、輝虎殿に謁見するため広間に案内されました。
「道澄さん、輝虎様ってセオリさんに似てないですか?」
「とても似てます。空似かも知れませんが、自覚がないだけで私たちと同じかも知れません。実は、セオリさんとお酒を飲みながら眠ってしまったら、この時代より少し前の輝虎殿に会ったのです。その輝虎殿もセオリさんそのもので、セオリさんと同じ匂いがしました」
「ええっ!」
コノハさんは驚いたような声を上げました。
つづく
