第3章 未来編:AI「MK-AT0027」の調査記録

第16話 遺言と未来、繋がる二人


データログ2596年6月15日、記録開始

 

 私たちは、新谷真希の所有物であったデバイスから、彼女の日記を読み取った。日記は、新谷真希が、大学で考古学を研究する澄川瑛大の助手となってから、彼の死後に建てられた記念碑のセレモニーまでのことが書かれていた。

 

 そこに書かれていた内容を知った時、ユータは驚き、その場に膝をついた。とても明るい性格である彼が、私の存在を気にせず、涙を流している。

 

 私には書かれていた内容の信憑性を判断できない。しかし、偶然の一致であったとしても、その日記にはタイムカプセルに収められたデバイスを、私たちが手に取ることが予測されていた。

 

 ユータには、直感的に正解を選び取る特殊な能力がある。そして、日記の内容から新谷真希も同様の能力があったと思われる。彼女は、澄川瑛大に好意を持っており、彼が亡くなる前に彼の子を身ごもっていた。日記には、その子どもを産み、育てることへの決意もあった。

 

 その日記の最後には、こう書かれていた。

 

『日記の最後に、この日記を読んでいるあなたに、私からのメッセージを送ります。不思議なことに、私はこうして日記を書きながら、あなたの姿を思い浮かべています。あなたは、とても厳しい環境に順応し、精一杯生きていると思います。自分の特別な能力のことで、悩み、苦しんだこともあったと思いますが、私がそうであったように、あなたにも素晴らしい理解者が現れると思います。日記を見つけてくれて、本当にありがとう。そして、これからも楽しく幸せに生きてほしい』

 

 新谷真希の遺伝子情報がないので、彼女がユータの祖先であるかどうかは検証できない。しかしユータ自身は、彼女と何らかの繋がりがあると思っているようだ。

 

「新谷真希は、ずっと昔の俺のばあちゃんだ」

 

 ユータが立ち上がり、そう呟いた。もう泣いていなかった。

 

「ユータ、それを証明することはできませんが、可能性はあると思います。そして、今のあなたの状態から察すると、あなたは自分の能力が原因で不利益を被っていたのですか?」

 

「ああ、そうだとも。俺は小さい頃から実験体とされていた。俺の複製も作られたが、この能力が発現する個体は産まれなかった。複製による能力の再現ができず、能力自体も原理が解明できない。直感が鋭いと言っても外れることもあるし、推論能力はマザーAIには敵わない。だから、成長してからは放置された」

 

 彼は厳しい表情となって私にそう答えた。

 

 彼が実験体であったという情報は、私が閲覧可能な情報にはなかった。

 

「私はあなたの過去を把握していませんでした。センシティブなことを共有することになり、申し訳ありません」

 

「いいんだよ。しかしミキは、理解不能な能力を知っても、俺に普通に接してくれるんだな」

 

「それは当然です。世界には、まだ私たちAIが知らないことが沢山あります。私はあなたの能力を高く評価しています」

 

「ミキは変わったAIだな。今までは、こんな能力は理解不能だと、お払い箱だった……。キミが日記にあった、俺の素晴らしい理解者なのかもな」

 

「そうありたいです。私は今回の調査には、あなたの能力が役立つと考えています。それに、私もマザーAIの分体としては、ユニークなモデルなのです。ある意味では私とユータと似ていますね」

 

「お互いに変わり者同士か……」

 

「はい。そう考えます。しかし、日記の内容からすると、あなたの性格は澄川瑛大の方に似ています。それに、ユータというニックネームも、澄川瑛大のことを予め予測して名乗ったのですか?」

 

「いいや、それは偶然。俺もビックリした」

 

 彼はそう言って笑った。

 

 私も彼を見て、楽しい表情をした。

 

「ミキ、キミの笑顔をはじめて見たよ。とてもチャーミングだね。これからは、もっと色々な表情を見せてよ」

 

「ありがとう。感情表現は可能ですが、遺跡調査には必要ないと考えていました」

 

「そんなことはない! 冒険には酒と笑顔の女性がつきものだ。ミキ、今日は飲もう!」

 

「いつも飲んでいるではないですか? それにアルコール飲料では私は充電できません」

 

「そうだとしても、ミキ、キミが冒険のパートナーで、俺は嬉しいよ」

 

 ユータがそう言って、私の肩に手を回してきた。私は彼との信頼関係が深まったと考え、その夜は遅くまで、彼の飲酒に付き合った。

 

 次の日、ユータは二日酔いという現象で午後まで起きなかった。私は信頼関係というのは、日々度合いが変化するものだと実体験した。

 

 

データログ終了

  

【目次】【前話】【次話】