昔、この家の周りには畑が広がっているだけで何もなかった。そこはお父さんの実家の畑だった。

 

 お父さんとお母さんの実家は割りと裕福な方だったけれど、大きな戦争で国が負けて多くの財産を失ったらしい。お父さんは十人兄弟の末っ子で、結婚した後におじいさんから家が建つだけの土地を譲って貰い、そこに木造で二間の小さな家を建てた。


 二人は結婚して自立すると貧しくはなかったが、それまでと同じような不自由のない生活ではなくなった。お父さんは夜遅くまで働いた。夕方になると小さな家の煙突からお母さんがお父さんのためにお風呂を薪で沸かす煙が上がっていた。

 

 お母さんは動物が好きで、暮らし始めて直ぐに子犬を貰って来た。お父さんも動物は好きだったが、余裕がないと言って反対したようだ。
 やがて二人の間に一人目の子供が産まれ、数年後に二人目が産まれた。それが今のお兄さんとお姉さんだ。


 その頃には家の周りの畑が売られ、何もなかった場所に大きな工場が次々に建って行った。直ぐに家の周りは工業団地になった。

 

 そんな四人と犬一匹の生活が続いていたある寒い日の夜だった。お母さんは用事があって少し離れた家まで歩いて出掛けた。
 その帰り道で、後ろから何かの声が聞こえた。振り返ると捨てられて痩せ細った子猫がいた。お母さんはそのまま知らん振りで去ろうとしたらしい。


 でも子猫はお母さんの後を必死に追った。そして立ち止まったお母さんに抱き上げられた。それがこの家の最初の猫、ミーコになった。

 ミーコは頭も良く、行儀も良かった。玄関や窓は自分で開けられるし、家の中では絶対に爪を研がなかった。ひゅうまと違いご飯の前に食卓に上がることもなかった。


 それにねずみをよく捕まえ、咥えて来てお父さんとお母さんに見せた。そうするとミーコは頭を撫でられ褒めて貰えた。でもミーコはメス猫だった。

 

 まだ周囲に家自体が少なかったのでミーコの他に猫は殆どいなかった。だからミーコが恋愛をする機会はなく、そのまま何年かが過ぎた。
 工業団地の周辺に家が建ち始め、ミーコはそこで飼われたオス猫と恋に落ちた。やがてポチは死んでしまった。代わりにミーコが沢山の子供を産んだ。


 ミーコは子供のことを家族が喜んでくれると思った。お兄さんとお姉さんは喜んだ。が、子供はまだ目が開かない内にお父さんにどこかに連れて行かれてしまった。そして戻って来なかった。ミーコは子供たちを必死に呼んで捜したが見付からなかった。ミーコは悲しくて泣き続けた。

 

 ある時、お父さんとお母さんがミーコのことで喧嘩をした。お父さんは怒ってミーコ自身を袋に入れて自動車で連れて行った。


 ミーコは山に捨てられたそうだ。やっとの思いで袋から這い出ると全く知らないところだった。


 自分が捨てられたことを悟ったミーコは悲しかった。そしてこのまま山で生きて行こうかと思った。だけど、家族が居る家に帰りたかった。


 ミーコは家を探して帰ろうと思った。山を下り、勘だけを頼りに何日も何日もさまよい続けた。


 お母さんはミーコのことを諦めていたらしい。もう何日も経っていた。ある夜に声がするので玄関を開けた。するとそこには痩せこけたミーコが居た。お父さんもミーコを抱いて謝った。ミーコは帰って来て良かったと思ったらしい。

 

 数年後、ミーコはまた恋をして子供を産んだ。ミーコはお父さんに連れて行かれると思って今度は子供を押入れの奥に隠した。が、直ぐに見付かってしまった。


 三毛の綺麗な一匹だけが残された。他の子供は同じようにお父さんが連れて行ってしまった。ミーコは残された子供を大事に育てた。


 その子供はチーコと呼ばれ家族に加わった。しかしチーコもミーコと同じメス猫で悲しい運命を背負うことになった。

 

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