第2章 僕が過ごした彼女との時間

第7話改 僕の晴れたコトと吹雪くトキ(1)


 雪姫と一緒に過ごしたクリスマスの時間を終え、旅館に戻った後、夕食の時間まで部屋で過ごした。夕食会場に行くと、前日と同じように男女のグループが隣にいた。彼らの会話が偶然耳に入ってきた。

 

「今日もコスプレの女の人が滑っていたよね?」

 

「うん。でも、今日は連れがいなかった?」

 

(ドキッ! しかし、着替えているから僕だとは気づかれないだろう……)

 

「相手はスキーヤーだったけど、パークでのジャンプは凄かったよね」

 

「あれは半端ないよ。あのキッカーの大きさで、ダブルコーク1080まで回すなんて、相当なレベルでしょ」

 

「お似合いだったね。コスプレのモデルとプロのスキーヤーかな? 映えていたよね!」

 

(……恥ずかしい。そんな風に見られていたんだ……。こっちは全然余裕がなかった……)

 

――

 

 夕食後、僕は正体がわからない雪姫のことを考えていた。一番高い可能性は、何かの撮影のため、スキー場でジャンプする人材が急遽必要になっているケースだろう。スタントマン自体は大勢いても、スキーができる人材は限られる。映画やテレビ番組の撮影であれば秘密も多い。しかし、スキー場に先乗りをしていた若手の役者に過ぎない彼女は、僕への依頼を独断で決められない。後から来る他のスタッフに相談する必要がある。

 彼女に対しての既視感は、髪の色が京都で以前会った女性と同じだからだろう。

 

(このスキー場には雪女や雪ん子の伝説があるから、その特集でもするのかな?)

 

 そのそんなことを考えながらクリスマスの夜は更け、いつしか失恋の痛みを忘れ、心が軽くなっていた。

 

――

 

 色々と考え込んだクリスマスの夜は明け、快晴の朝を迎えた。彼女がなぜ僕のような人物を探していたのかの理由は、色々想像できても正確にはわからない。だけど、せっかく出会えた相手であるから、可能なことなら協力しようと決めていた。

 彼女が僕に特別な感情を抱いているわけではないけれど、自分にとって彼女は、推したい相手になっていた。

 

 スキー場のリフト券売り場前が、雪姫との待ち合わせ場所だった。約束の時間が遅めだったので、僕は少し滑ってからその場所に向かった。まだ約束の時間前だったが、ゲレンデの上部から滑り下りてくる彼女の姿が見えた。どうやら彼女も待ち合わせ前に一人で滑っていたらしい。

 

「雪姫、おはよう」

 

「おはよう、アキラ」

 

「あれ? 今日はそらを連れていないの?」

 

 僕はぬいぐるみがスノーボードに乗っていないことに気づいた。

 

「うん。今日は色々とあって、そらを連れてこれなかったんだ」

 

(ん、ぬいぐるみの都合?) 

 

 少し疑問に思ったが、軽い会話をしながらリフト乗り場に向かった。

 

――

 

「アキラは……私が、人を探していた理由を知りたいんだよね?」

 

 二人でリフトに乗っていると彼女が訊ねてきた。

 

「うん、教えてほしい」

 

 僕がそう答えると、明るい彼女は真剣な顔つきになった。

 

「じゃあ、話すね。実は……明日、私のお母様が主催する大きなイベントがあるの。そのイベントでジャンプをしてくれる人を探していたの」

 

「えっ……。てっきり、このスキー場で何かの撮影があって、ジャンプをするスタントマン代わりに、僕が必要なのかと思っていたよ。それで、具体的にはどんなイベント? 昨日のようなジャンプでいいのかな?」

 

「ジャンプは、昨日みたいにクルクルしてくれれば、みんな喜ぶと思うの……。でもサプライズのイベントだから、詳しくは言えないの……ごめんなさい」

 

「お母さんが主催って、もしかしたら雪姫の家族って、スキー場の経営者?」

 

「ちょっと違う……けど、それに近いよ」

 

「僕は選手じゃないし、プロでもないから、もし大きいイベントなら、選手かプロを頼んだ方がいいんじゃないの? 僕なんかでいいの?」

 

「アキラにジャンプをして欲しい。昨日、アキラと巡り合えて、本当に良かったと思ったよ」

 

「ジャンプは、必ず成功するってわけではないけど……」

 

「もし、ジャンプに失敗しても危険がないように、ちゃんと手配するから、お願い、アキラ……力になってくれない?」

 

 縋るような瞳で見つめられたら、もう断りようがない。

 

「うん、じゃあわかった。――飛べばいいなら、飛んでもいいよ」

 

「ありがとう、アキラ。本当に優しいね!」

 

 想像していた何かの撮影とは違ったが、ジャンプをしてほしい理由はわかった。このスキー場で何かのサプライズイベントがあり、彼女の衣装や行動がサプライズの一部であるのなら、今までの彼女の行動が納得できる。彼女の衣装やウサギのぬいぐるみは、この地域の雪女の伝説を彷彿とさせる。

 

 イベントの詳しいことは午後から教えてもらうことになり、僕たちはパークエリアでスキーとスノーボードを楽しんだ。午前中は快晴で風もなく、絶好のジャンプ日和だった。

 

(きっと、イベントでもここで飛ぶことになるのだろうな――)

 

 彼女のリクエストに応え、持っている技を全て披露した。彼女の笑顔を見ると、この出会いに感謝の気持ちが込み上げてきた。今日の一日は、僕の心に深く刻まれることとなるだろう。

 

 

  つづく

 

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