ヒマリのジャンプはスロープ部分を完全に超え、平らな部分まで届いてしまっていた。水の張ってあるプールへの高飛び込みが、地面への飛び降りに変わってしまうようなものだった。
ミドルキッカーのスタート位置に立ったヒマリは、何も考えられず、ただ遠くへ飛びたかった。
ヒマリがスタートをした。
ミコトが飛び終わった。ミコトは後ろ向きで滑ってから飛ぶスイッチ540にグラブを加え、予選より点を上げて77点を出した。
「マリ、暴れたらダメだよ。もっとユウヤを見送りたいの?じゃあ、もう少しだけだよ」
ヒマリはそう言ってユウヤを追って慣れない雪道を横断し始めた。
「こら。これじゃ帰れないよ。それとも本当にウチに来たいのか?」
ユウヤがそう訊ねるとマリは鳴いて応えた。
大雪の日、マリはヒマリの家でユウヤに抱かれて気持ち良さそうにしていた。
会場に決勝開始を告げるアナウンスが流れる。
「さあ、ジュニア男子はユウヤ選手からです。予選では2本目にスプレッドイーグルからコザックの連続技で63点を出しています。決勝はどうでしょう。さあ、スタートしました」
「お前さぁ、もう少しツキハのことを考えろよ。優しくしてやればいいのに」
ユウヤは呆れたように言った。
「少し運動ができるだけで、ボクは他に何かできる訳じゃない。優勝できたってオコジョの森を守れるか分からない」
ヒマリはツキハから視線を外した。
決勝は予選の下位から上位へのランク順に、ジュニア男子、オープン男子、公式戦女子、公式戦男子の順で各1本を飛び、2本目も同じ順番で飛ぶことになっていた。
ヒマリはツキハと二人でリフトに乗っていた。