空港では、旅行会社の人がぼくをピックアップしてくれた。小さいツアーだったので他のお客はカップルが一組だけだった。そのカップルはテレビで見覚えのある人たちで、一人で来ているぼくにとても親切にしてくれた。

 

 ホテルに向かうまでに市内観光がついていて、最初がフィッシャーマンズ・ビレッジだった。少し風が吹いていて、肌に当たる風が心地よい。ぼくは売店で紙コップ入りのジュースを買ったが、余り喉が欲しがらなかった。

 そろそろフィッシャーマンズ・ビレッジを出発する時間となる。ぼくがベンチから腰を上げたとき、一台の観光バスが到着した。同じ飛行機に乗っていた別の旅行会社の人たちだった。その集団の中に飛行機で隣だった女子大生もいた。

 

『やあ』

 

『あっ、来ていたんですか?』

 

『うん。観光先なんて、どの旅行会社でも同じなんだね』

 

『もう出発するんですか?』

 

『そうなんだ。そうだ。良かったら、オレンジジュースを飲む?』

 

『えっ、飲みかけ?』

 

『殆ど口を付けていないよ。要らなかったら捨ててもいいし』

 

『じゃあ貰います。でも、また会いそうな気がしますね』

 

『かもね』

 

 ぼくは紙コップを彼女に渡し、少し会話をしてから再び別れた。

 

 彼女たちはチャイニーズ・シアターを先に見学して来たようだった。そしてぼくたちの次の目的地はチャイニーズ・シアターだった。

 

 

 チャイニーズ・シアターの回りは予想通り観光バスが何台も駐車していた。ウォーク・オブ・フェイムは人が溢れている。みんな目当てのスターの手形を探していた。ぼくにはそんなにありがたい物とも思えなかった。でも一枚だけ写真を撮って貰い、次の目的地に向かった。

 ぼくたちは再び車に乗り込み、ホモ通りと呼ばれる所を通ってファーマーズ・

マーケットに向かった。

 

 ファーマーズ・マーケットに着くと、観光バスが並ぶ駐車場の中に不似合いな黒塗りのリムジンが一台だけ停まっていた。暫くするとマーケットの奥の方から係員に伴われた見覚えのある人が歩いて来る。一緒だったカップルが挨拶に向かい、上下関係が厳しい世界なのだと思った。

 

 そのリムジンが去って行くと、カップルは時間がないと言ってマーケットの奥に入っていった。ここでは1時間が与えられていたが、ぼくにとってはとても長い時間に思えた。

 マーケットは日本によくある市場とは色合いとか匂いが全然違うがゴチャゴチャとした所は同じようなものだった。特に欲しいと思うような物はなく、一通り見て回った後でマーケットの隣に郵便局があることに気づいた。

 

 郵便局に入り、売れ残っていた記念切手と国際郵便用の切手を買った。ぼくは届く筈のない手紙を出そうと考えた。それは亡くなった彼女への手紙だ。

 

 暫くすると買い物を終えたカップルが戻り、市内観光の最後の場所となるダウンタウンに向かった。ダウンタウンでは車の中から街並みを見て、昼食のために多くのレストランが入っているビルの前で降ろされた。

 ぼくはカップルから誘われてレストランに入り、一緒に日本食を食べた。二人は仕事の話をしなかったし、ぼくもプライベートで来ていると思って仕事のことには触れない。もっぱらメジャーリーグのことで会話に花が咲いた。

 

 その二人と一緒だったのはレストランまでだった。カップルの滞在先とはホテルが違う。別の車が迎えに来て、二人と握手をしてぼくは自分のホテルに向かった。そこはハリウッドの外れにある古くて小さなホテルだった。

 

――◇

 

 昨日の出来事を思い出しながら入浴していると、オプショナルツアーの迎えが来る時間になっていた。慌ててバスルームから出て着替えをする。

 

 ぼくは滞在中に複数のオプショナルツアーを申し込んでいた。それは生前に彼女が行ってみたいと話していた場所だった。

 

 迎えに来た車に乗って、ユニバーサルスタジオに向った。平日でも大勢の人がいたが、日本のテーマパークほど混んでいない。アトラクションを次々に回ったが、一緒に来たかった筈の彼女のことを思い出してしまう。

 

(ひとりじゃ楽しくないよ……)

 

 夕暮れになり、ユニバーサルスタジオに迎えが来た。その車に乗って、ぼくはホテルに戻らず、隣町にある小さな飛行場に向った。その車を降りる頃には夜になっていて、手続きを済ませて案内されたのは小型のセスナ機だった。ナイトフライトが始まる。

 

 パイロットは小柄な若い女性で、機内で少し会話をしてから離陸する。

 

「アクロバットは大丈夫?」

 

「問題ない」

 

 セスナは今にも墜落するのではないかというような音を立て、空を舞った。ロスの夜景はキレイだった。

 人がはっきり見えるほどの低空スレスレを飛んだかと思えば、今度は旋回をして高度を上げ、どんどん背中が後ろに引かれて真上を見上げて星空が見えた。

 その機体がロールをはじめると身体が宙に浮いた。ジェットコースターとは全然違うスリルだった。

 

 遊覧飛行を終えて飛行場に向う。

 

「大丈夫?」

 

「最高だよ、あなたの操縦は素晴らしい!」

 

 降りた後で整備士に二人で記念写真を撮って貰い、握手をして別れた。

 

 ユニバーサルスタジオでは食事の味も分からなかったが、夜景を見た後のディナーは、気分も晴れて美味しかった。

  

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