第1章 現代編:新谷真希の観察日記

第1話 研究室の初日


20XX年9月1日

 

 今日は新たな人生の一歩を踏み出した日。大学を卒業後に一般企業に就職した私だったが、この春に色々あって失業した。大学で事務をしている先輩から紹介して貰い、大学の前期が終わって、後期が始まるまでの間に新しい仕事を始めることになった。

 

 朝から緊張と期待で胸がいっぱいだった。どうしても緊張してしまって、朝から手が震えてた。仕事は考古学研究の助手と研究費の管理。応募者はそれなりの人数だったようだけど、クイズ形式の採用試験に全問正解だったのは、私だけだったと面接で聞いた。

 苦手なことも多いけれど、これからは自信を持って生きていくぞ、と心に誓いながら大学に向かった。

 

 研究室に到着すると、中で見知らぬ男性が何か書類に目を通していた。一瞬、「澄川先生?」と思ったけど、何となく違う雰囲気。この人は一体誰?

 

「あ、こんにちは。新谷真希です。今日からこちらで助手をさせていただく予定なんですが……、澄川先生はどちらですか?」

 

「あ、ああ、こんにちは。真希ちゃんね。俺が澄川だよ」

 

 え、マジで? このだらしない感じが澄川先生? 面接で会った先生と全然違う……。

 

 その時、ドアが開いて、面接で会った男性が入ってきた。

 

「おお、新谷さん、よく来たね。引継ぎを始めようか」

 

「あ、はい。でも、あなたが澄川先生では?」

 

「あ、それがね。実は前任の助手なんだ。澄川先生が面倒だからって、面接を振られて。澄川先生は、あっち」

 

 前任の助手さんが説明を始める。どうやら澄川先生は研究が凄いらしく、世界的にも評価されているらしい。ただ、日常生活がだらしなくて、その面倒を見ていたのがこの前任の助手さんだった。この助手さんが研究成果を認められ、後期から研究室を独立するらしい。このため助手を募集していたようだ。彼は私に研究室のルールや仕事の流れを説明してくれた。

 

「新谷さん、この研究室の未来は君に託されたよ。先生の日常生活はだらしないけど、その頭脳は素晴らしい。しっかり面倒を見てあげてね」

 

「わかりました、頑張ります」

 

 彼はそう言って研究室を出て行った。さて、これからが本番だ。

 

 澄川先生は確かにだらしない。机の上は書類でごちゃごちゃ、汚れたコーヒーカップが二つも置いてある。でも、散らかった書類の中から一枚の古い写真を取り出して、「これが次の研究テーマだ」と言うと、その写真から歴史の謎を説明してくれた。

 

 うーん、確かに頭はいい。でも、このだらしなさはどうにかならないのかな?

 

 とりあえず、これからは先生の観察日記を毎日つけることにする。実は以前の職場で人間関係でちょっとしたトラブルがあって、それが観察日記を習慣にしたいと思う、きっかけになった。

 先生がどんな人なのか、どういう癖や習慣があるのかを把握することで、少しでも円滑な人間関係を築けたらいいなと思う。それに、この観察がまた新しい自分を見つける手助けにもなるかもしれない。

 

 さて、明日からは京都での調査が始まる。ワクワクと不安が交錯する心情だけど、新しい仕事、新しい環境、これが私の新たなスタートラインだ。

 

 今日の一言:

 面接で会った人が先生だったと思って期待していたのに、一気に心は萎んでしまった。澄川先生はだらしなくて、今日は研究室の掃除と片付けで終わってしまった。私はこれからやってゆけるだろうか?

 

 次の日の予定:

 明日は先生と一緒に京都に出張。3日間滞在する予定。あの大雑把な先生に調査なんてできるのだろうか?

  

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