第3章 未来編:AI「MK-AT0027」の調査記録

第13話 隕石の冬の終わり、遺跡調査の幕開け


データログ2596年5月7日、記録開始

 

 この私、AI「MK-AT0027」は、男性型ヒューマノイド「YUDA-SMKW0038」を伴い、旧文明の遺跡調査を行うことになった。モニタに映された彼の顔を見ると、清潔な身なりで、顔の特徴や表情から、高い集中力と規律が読み取れる。

 今回の遺跡調査は、私にとって初めての屋外活動になる。調査に同行させるヒューマノイドは、マザーAIが私との屋外での活動に相応しいヒューマノイドの候補者リストを作成した。その候補者たちの希望を確認し、最終候補者の中から、私がデータを分析して最終的に決定した。

 

 私は、この調査の遂行にあたって、これから記録を残すこととする。

 

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500年前:

 

 小惑星群の地球襲来が確認され、最初は秘匿されたが、やがて各国が公表した。

 

 発見当時、小惑星群は200年から300年後に地球に襲来すると予測され、時間的な猶予はあった。その小惑星群は、数十メートルから十数キロメートルまでの様々な小惑星で、その数は数千個を遥かに超えていた。その中の数十個が確実に地球に衝突すると考えられた。

 

 当時の科学では襲来する全ての小惑星群を防ぐことは不可能であり、人類が地球を脱出することも現実的ではなかった。各国は未曽有の危機に接して団結を強め、協力して危機に備えることになった。

 

 危機への対処は大きく2つあった。一つは、小惑星にミサイルを撃ち込み、可能な限り地球に到達する前に破壊すること。もう一つは、比較的安全な場所に巨大なシェルターを建設し、その中で人類が自給自足ができる環境を整えること。それらが計画的に進められた。

 

 

250年前:

 

 小惑星群が地球に襲来した。多くの者はシェルターに避難することを選んだが、小惑星群の襲来を、運命として受け入れる者や、危機を信じない者がいた。国家の方針として対策を取らない国もあった。

 数か月に及んだ小惑星群の襲来の後、対策を取らなかった国は滅んだ。大きな小惑星の迎撃には成功したが、その残骸などが燃え尽きず、隕石として地上に降り注いだ。大地は激しく揺れ、巨大な津波が地上を襲い、その後に迎えた隕石の冬の到来で、地上の大半の動植物が絶滅した。また多くのシェルターが被害を受け、人類の人口は激減した。

 

 当初、隕石の冬の時代は数十年で明けると思われていた。しかし、予想以上に隕石の直撃を受け、大気の状態が不安定となったため、地球は氷河期を迎えた。このため、人類はシェルターに数百年も籠る必要があると判明した。しかし、シェルターには数百年分の備蓄や自給自足ができる環境はなかった。

 食糧とエネルギー問題を少しでも先送りするため、人口の管理がはじまった。しかし、一部の人間は人口管理を嫌ってシェルターの外で暮らしはじめた。

 しばらくすると、自由な暮らしを求めた人間がシェルターを襲い、物資の強奪をするようになった。彼らは鎮圧され、シェルター外への移住が規制されるようになった。比較的温暖な赤道上には陸地がなくなっており、地上には暴風雪が吹き荒れるため、当時の地上には人間が安心して住めるような場所はなかった。

 

 

200年前:

 

 シェルターの人口の管理を私たちAIが行うようになった。以前は人間が自分たちで人口の管理をしていた。しかし、人間には私利私欲があり、争いがあり、不正を働く。このため、AIが管理をするようになったのだ。私たちの目的は人類の絶滅を防ぐことにある。

 シェルターで暮らす人間は、ペアリングを私たちAIが管理するようになり、人間は一定の年齢を過ぎたら生殖機能を摘出することになった。私たちAIの管理を拒絶する人間が反乱を起こしたが、無事に鎮圧することができた。

 また、この頃から食糧プラントの建設やエネルギー資源の採掘が、シェルター外で少しずつ開始された。

 

 

100年前:

 

 遺伝子の解明が進み、人間とほぼ同様の存在をヒューマノイドとして遺伝子工場で安定して産み出すことに成功した。ヒューマノイドは生殖行為で子孫を作らないように遺伝子を改良しているが、それ以外は人間と何も変わらない。感情もあれば欲求もある。誕生の仕方が、それまでの人間と異なるだけだ。

 ヒューマノイドの量産が可能となったため、人類を滅亡させないように遺伝子を継承する問題が解決した。

 これ以降はペアリングが不要となり、ヒューマノイドを安定生産することで、シェルターの中で持続可能な社会を維持することが可能になった。

 

 また私たちAIが、マザーAIの分体としてアンドロイドの身体に移植され、スタンドアロン状態で活動できるようになる。このため、シェルターで必要とする資源を得るため、私たちマザーAIの分体が、ヒューマノイドを指揮し、シェルター外で活動するになった。

 

 

現在:

 

 250年も続いた氷河期は徐々に終わりを迎えようとしている。隕石による冬の終わりに備えて、私たちAIは滅びた旧文明の遺跡調査を開始した。春を迎えてシェルター外でヒューマノイドが暮らせるようになる前に、私たちAIは旧文明をより理解する必要がある。既に自然繁殖する人間は存在しておらず、私たちAIが本来の人間そのものを学習できる機会が失われている。

 

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 私の同行者となるヒューマノイド「YUDA-SMKW0038」は、活動記録を見る限り、とても優秀なヒューマノイドだ。私は思慮深い分析型のAIモデルだが、瞬時に決断するのが不得意だと自己認識している。このため、未体験の屋外調査では、彼の経験が役立つことだろう。

 明日、私は彼と重要な面談を持つ。その中で調査計画を詳しく説明し、今後の方針を決定する必要がある。私は彼のヒューマノイドとしての個性を分析し、全ての可能性を計算し、明日の最適な面接プランをシミュレートした。

 

 

データログ終了

  

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