第1章:ある夏の河口湖

1.8 カムイみさか室内ハーフパイプ


 私はホテルをチェックアウトすると、鵜の島を近くから見ようと河口湖の遊覧船乗り場に行きました。

 

 遊覧船のアンソレイユ号は、船津浜の桟橋を出港し、鵜の島の近くでUターンをして船津浜に戻って来ます。

 

 私は天気も良かったので、2階のデッキスペースから河口湖を眺めました。富士山は霞んでいてよく見えませんが、ロープウェイが架かった天井山や河口湖大橋、そして夢の中で上陸した鵜の島が見えます。鵜の島を夢で見た後に眺めるのは不思議な気分です。

 

 夢を振り返りながら20分ぐらいの航行を楽しみ、私が遊覧船から降りようとすると、これから乗船する待機列に天井山で見掛けた二人と富士急ハイランドで写真を撮った女性が洋服姿で一緒にいました。

 

「昨日はありがとうございました」

 富士急ハイランドで会った女性が私を見て声を掛けてくれました。

 

「偶然ですね。また会えるとは」

 私は立ち止まってそう答えました。

 

「知り合いか?」

 凛とした女性が訊ねました。

 

「ええ。昨日の遊園地で写真を撮って貰ったんです」

 

「あれ? 昨日の天井山の山頂で見掛けた人か!」

 凛とした女性が答えに続きました。

 

 私は午後の予定まで時間があるので、彼女たちが乗る遊覧船が戻るまで待合所で待つことになりました。

 

 

 偶然が重なって一瞬の出会いが続いただけであれば、わざわざ待つことはしません。が、私は夢の答え合わせをしたいと思いました。

 

 彼女たちが遊覧船から戻ると、私は桟橋の前で出迎えました。

 

「お帰りなさい」

 

 彼女たちも午前は特に予定がなく、偶然にも午後の予定は私と同じでした。三人の内の二人はスノーボーダーで、私が『リサとガスパール』と一緒の写真を撮った女性はスキーヤーです。

 

 私たちは立ち並んでいるお土産屋さんを見て回り、二階にあるレストランで早めの昼食にしました。

 食事をしながら会話をすると、昨日の午後に河口湖に来て、昨日は二人対一人で別行動をしていたようです。よく似た二人は姉妹で姉がセキナ、妹はコノハ、凛とした女性は従姉でセオリという名前でした。

 

「昨日の天井山で見掛けた人と、コノハが遊園地で写真を撮って貰った人が同一人物で、午後の目的地が同じとは、偶然にしても類は友を呼ぶってあるんだな」

 セオリさんがそう言いました。

 

「何かの縁ですかね。観光地で見学場所が重なることはあっても、室内ハーフパイプまで普通は被らないですね」

 私は応えます。

 

「雪が好きな人間は行動パターンが一緒なのかも」

 とセキナさんが続けました。

 

 私は『夢でも縁があったから』とは言いませんでした。

 

 

 カムイみさかスキー場は、冬は初級者向けの小さな人工スキー場ですが、夏には全長100 m 、 高さ4 mの室内ハーフパイプのゲレンデになります。

 

 私とコノハさんは午後からのスキーキャンプに参加してレッスンを受け、他の二人はフリーでスノーボードをしていました。が、ハーフパイプのレベルが段違いに高く、三人とも華麗にハーフパイプを飛んでいます。

 

 レッスンは施設の営業終了の17時半まで続きますが、休憩は各自で自由に取ることになっています。すっかり疲れた私がハーフパイプの下で棒立ちになっていると、コノハさんが私に近付いて来ました。

 

「お疲れさまです」

 

「お疲れさま。さすがだね」

 

「そんなことないですよ。さすがに疲れました。少し休憩しませんか?」

 

 私たちは隣接する休憩所に行き、自動販売機で買ったジュースを飲みながら他愛もない話をしました。

 

「昨日の電話って、お姉さんか従姉から?」

 

「そうです。車で迎えに来て貰う時間を間違えていて、大分待たせてしまいました」

 

「リサとガスパール、大分気に入っていたようだね」

 

「ええ。あの手のキャラクターには目がなくて……。せっかくの遊園地だから、張り切って浴衣で行っちゃいました」

 コノハさんは笑顔で私に応えました。

 

「浴衣姿、とても良かった」

 

「ありがとうございます。でも、浴衣の所為か分からないんですが、実は昨夜は浴衣で寝ている所を襲われる、変な夢を見たんです」

 

 

「変な夢?」

 

「襲われて河口湖の鵜の島に連れて行かれたんです。それで今日は気になって遊覧船に乗ったんです」

 彼女はそう言って夢の内容を話し出しました。

 

 彼女の夢は私の夢とほぼ同じでした。私の二日分を一晩で見た感じです。あるアメリカの大学が夢の共有を調査した際、他人と同じ夢を見ることが数千件以上も報告されたそうです。

 私たちは偶然にも同じ夢を見たのかも知れません。ただ、あの夢の中での私は今の私ではありませんでした。

 

「声がすると思ったら、ここにいたんだ!」

「お邪魔かな?」

 セオリさんとセキナさんがやって来ました。

 

「そんなことないよ!」

 

「で、何の話?」

 

「昨夜の鬼の夢の話をしていた所だよ」

 

「鬼たちは宮司を操ってカチカチ山の狸の祟りだと偽り、実はおじいさんの山に隠された武田の埋蔵金を狙っていた。でも、鵜の島で鬼たちは退治され、おばあさんと一緒に助け出される、っていう話で当たっている?」

 私はそう続けました。

 

「あれ? なんで知っているんですか?」

 コノハさんは不思議そうです。

 

「今のは私の夢です。実は似た夢を見たんです」

 私は白状しました。

 

「もしかして鬼だったの?」

 セオリさんは笑っています。

 

「鬼ではないですけど、今の自分の姿ではなかったです」

 

 そうして私は三人に明晰夢の話をしました。そして夢で見た『ある夏の河口湖』は終わり、『何か』が始まりました。

 

 

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