「チーコは保健所に連れて行かれた後、自分の運命を嘆き、自分を捨てたお母さんを恨んだかも知れない。しかし自分の家族を呪うだろうか。

 みんな長生きはできなかったが、決して不幸な毎日を送って来た訳ではない。それが天命だったのだと思う。
 きっとチーコだって天命を受け入れて天国に旅立ったに違いない。そう私は信じている。」
 コロおじさんは語り終えると横になり、ぼくの毛を舐めてくれた。


 ぼくは自分が恵まれていることを知り、不遇に亡くなった家族を想ってコロおじさんに身体を寄せながら泣いた。


「ひゅうま、泣いてくれてありがとう」
「生まれて直ぐに捨てられた子供たちやチーコさんが可哀想だよ」
「お父さんやお母さんも子供たちやチーコが嫌いだから捨てた訳ではないんだよ」
「本当に?」
「そうだよ。捨てる度にいつも辛い思いをしていたと思う」
「どうして辛い思いをしてまで捨てたりしたの?」
「今みたいに近くに病院があったら子供ができないようにしていただろう。だけど子供が増え過ぎてしまったらお父さんやお母さんには責任が持てない」
「それなら捨てないで守るのが責任なんじゃないの?」
「家族と言っても私たちはしょせん犬と猫だ。家で暮らす以上は人間の世話が必要になる。でも世話ができる数には限りがあるんだよ」
「だから生まれたばかりの子供やチーコさんの命を犠牲にしたの?」
「ああ。それは勝手な都合だし、幾ら理由を付けても褒められることではない。しかしそれが現実だったんだ」
「じゃあ、人間がうらやましいな」
「人間も同じようなものさ。他の家では人間だって殺し合ったり、お腹の中に居る子供さえも殺しているんだよ」
「人間の子供は生まれることもできなくて殺されちゃうの?」
「ああ、だから数日の命であってもミーコやチーコ、そしてデメの子供たちは生まれて来れただけマシなんだよ。少なくとも母親に抱かれ愛情を受けることができた」
「コロおじさんはこの話をクロさんやチョコさんにもしたの?」
「いや、私からはしていない」
「どうしてぼくには話したの?」
「私は直に死ぬだろう。そうしたら昔のことを知っている者がいなくなってしまう。だからだよ」
「ミーコさんやチーコさんは幸せじゃなかったのかな?」
「それは分からない。でも、ミーコは捨てられても戻り、チーコも嫌ならいつでも出て行くことはできた。だけど残っていた。辛くてもこの家が好きだったんだよ」
「じゃあ、少しは幸せだったのかな?」
「それはそうさ、楽しいことだって沢山あった。私はチーコやデメの笑顔を何度も見たよ。彼女たちが精一杯に生きたこともキミに伝えたかった」
「ぼくはミーコさんやチーコさん、そしてデメさんたちのことを決して忘れないよ」
「頼んだよ。ひゅうまは話を聞いてお父さんやお母さんが嫌いになったかい?」
「そんなことはないよ。今でも大好きだよ」
「私もそうだ。この家族が大好きだ」

 

 ぼくは部屋の窓から空を見上げた。コロおじさんがぼくに話したように、ぼくもハナに伝えるべきなんだろうか。


 ハナは何も知らない。話したらハナはお父さんやお母さんに不信感を持つかも知れない。そんなことをして意味があるのだろうか。ぼくは考え続けた。

 

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