道澄さんは矢を手に取ると印を切り、矢に向かって呪文を唱えました。すると破魔の矢は光り出しました。
「この矢を闇の奥に放ってください」
そう道澄さんに言われて私は弓を強く引き、光る矢を真っ暗な奥に向けて放ちました。光の矢は束となってどんどん広がり、辺りを照らします。
『ギャアー、アー、アー、アー』
と悲鳴のような音が響き、洞窟の中は明るくなりました。
「流石だな。これで松明を持つ必要もない」
輝虎様が感心しています。
「それほど長くは持ちませんが、ここで龍蛇を呼び出しましょう」
道澄さんはそう言って、明るくなった洞窟の中に少し進み、何か呪文を唱え出しました。
「誰だ!私を呼ぶのは」
三増で見た有鹿姫の姿をした女性が現れました。
「お前は有鹿姫!」
二郎さんが叫びました。
「有鹿姫?ああ、あの時の小僧か。見る者によって姿は異なる。人間は私の姿を都合よく想像し、勝手に名前を付けて呼んでいるだけだ」
そう言うと下半身が蛇の姿に変わりました。
「龍蛇様、先日は私を導いて頂いたようで、その御礼に参りましたよ」
「お前は望月千代女か。諏訪信仰を広める巫女頭のお前が私に逆らうのか」
つづく