「面白い。お前のいた世界では人の命の価値は同じなのか?」
「私はこの世でも同じだと思っています。生まれや育ちが違えども、悠久の時から見ればたかが数十年の人生で、天から見れば何の違いがあるのでしょう。誰であろうと命を粗末にして良い訳がない。だから輝虎殿も正義のために戦を続けている」
私に代わって道澄さんが答えてくれました。
「私は諏訪の神主が武士となった頃、御射山に建てられた小さな社に祀られた。社の周辺は草原や湿原が広がり、良い狩場でもあった。毎年夏には御射山御狩神事が開かれ、諸国から選りすぐりの武士が集って騎射や相撲、狩などの技くらべをして私を楽しませてくれた。長い年月に渡って武士たちは我らを敬い、諸国に社を建てて招いてくれた。しかし、私を祀り敬って来た諏訪下社の金刺氏は上社の諏訪氏に滅ぼされ、その諏訪氏も武田氏に滅ぼされた。そして武芸を競う場であった御射山祭は廃れてしまい、武芸ではなく悪知恵のある者がのし上がり、国を獲り合う世になってしまった。そんな醜い争いは見たくない。三増で多くの武士たちが未練を残して命を落とした時、その地の諏訪神社に私が耳を傾けると成仏できずに漂っている小沢城の有鹿姫の嘆きが聞こえた。そして私は有鹿姫を使って餓鬼悪霊を従え、亡者の国を作ろうと思った」
つづく