その日の夜、私たちは川原湯温泉で一泊しました。元の世界では、川原湯温泉は八ッ場ダムの建設で湖の中に水没しています。噴火によって地に埋もれた村もあれば、人間の都合で水に沈んだ村もある。私はとても不思議な因縁を感じました。その夜は輝虎様もお酒を飲まず、道澄様と一緒にいる時間を大切にされているようでした。
翌日、私たちは吾妻川と利根川の合流点にある上杉方の白井城で輝虎様と別れることになりました。道澄さんは輝虎様と二人で私や二郎さんから離れた所に歩いて行きました。きっと別れを惜しんでいるのだと思います。その輝虎様が夢を見ているセオリさんなのかは分かりませんが、私は二人が羨ましいと思いました。
暫くして道澄さんと輝虎様が戻って来ました。
「コノハ、達者でな」
「はい。輝虎様もお元気で。ありがとうございました」
私たちは別れの挨拶を交わして白井城を後にしました。輝虎様の顔はどこか寂しそうでした。
それから私たちは4日を掛けてアキの家まで戻りました。その間に立ち寄った寺社で、道澄さんは住職や神主さんの相談に乗り、何通もの書状を毎晩のように書かれていました。その姿は私には聖人のようにも見えました。
つづく