
「あの龍蛇は、こんな景色を見ていたんですね」
私はスキー場の山頂で道澄だった彼に言いました。
「うん。こんな見晴らしの良い場所に祀られて盛大に神事を行って貰っていたのに、人間同士の勝手な争いで社も神事も廃れてしまったら、人間に不信感を持つのも当然かも知れない」
「そうですよね。諏訪大社の中でも争いがあったんですから、神として祀られても人間を信じられなくなったでしょうね。龍蛇が最後に言ったんです。『道澄、お前はこの戦乱の世を最後まで見届けよ!』って。私はその最後の言葉が気になって」
「私が飲み過ぎて目を覚ました後だね」
「あっ、そうでしたね」
「確かに戦国時代は終わったけれど、この世界で戦乱が終わったとは言えないね。でも、道澄は江戸幕府まで見届けたから、その龍蛇との約束は守ったんじゃないかな」
「そうですね。上杉輝虎様だけでなく、織田信長や豊臣秀吉とも親しくなり、家康とも交流があったみたいですから。でも、あれから道澄さん、どうしたんだろう?」
ふと私は鏡の泉で別れたことを思い出して寂しくなりました。
つづく