母猫は叩かれた痛みを堪えながら、必死に軽トラックを追った。しかし、幾ら走っても車には追い付かない。ただ走っていると、そう遠くない所に軽トラックが止まっていた。そこは姥川という小さな川の土手だった。
男性は軽トラックから降りていて、その手には口を縛った紙袋があった。
『止めて!!』
母猫の願いは届かなかった。
男性は、姥川にその紙袋を放り投げてしまった。
口の縛られた紙袋はプカプカと浮かびながら下流へと流されて行く。
『私の子どもを助けて』
母猫は川辺を走り、下流に向かって流される紙袋を追い掛けた。
紙袋は水に浸かり、徐々に川に沈もうとしていた。母猫は意を決して川に飛び込んだ。紙袋を咥えて川から出そうとした。しかし、咥えた部分で水に濡れた紙が千切れてしまい、子猫が入ったまま沈み掛けた紙袋は流されて行ってしまった。もう母猫にはどうにもできなかった。
母猫は子猫を一匹も救えずに自分だけが川から上がると、ずぶ濡れになったまま川を見つめ、いつまでも子どもを呼んで鳴いていた。
つづく