離れのドアが開き、部屋は一気に明るくなった。日差しの中に影がある。お母さんだった。
「お母さん、お帰り」
ぼくは急いでタンスを下りて駆け寄った。
「ただいま、ひゅうま。留守番ありがとう」
お母さんはぼくを抱いて部屋の外に出ると物置の階段を下りた。階段下の小屋にはハナも帰って来ていた。
「お帰り、ハナ」
ぼくはお母さんに抱かれながらハナに声を掛けた。
「ひゅうま、ただいま。また後でね」
お母さんはぼくを母屋の縁側に連れて行くと旅行の荷物を片付け始めた。他の大人も片付けで忙しいらしく、お兄さんの子供が退屈そうにやって来た。
やれやれと思いながらぼくは相手をしてあげた。まだ小さい子供なのでいつも子守は大変だが、一緒に遊ぶのは嫌いじゃなかった。
夜になり、お母さんが寝室に向かった。ぼくも後ろを付いて行った。お母さんがぼくに気付いて振り向いた。
「ねえ、お母さん、心配なことがあるんだ。ぼくも病気が酷くなったら保健所に連れて行かれるの?」
お母さんはぼくを抱き上げて寝室に入ると布団の上に乗せてくれた。
「今日は一緒に寝ましょう」
お母さんはそう言って布団の中に入った。ぼくは直ぐに答えを聞かなくても良いと思った。ぼくも布団の中に潜った。気持ちが良くて直ぐに寝てしまった。
翌日は風もなく穏やかで真冬の割に暖かだった。お母さんが買い物に行く時に、ぼくも外に出てハナの小屋に向かった。
「旅行はどうだった?」
「あのね、霧ケ峰高原スキー場って言うところに行ったの。宿には小さな木の家が幾つもあって、私の仲間もいたわ」
「へぇー、スキー場か。寒そうだね」
「ひゅうまは雪が苦手だったわね。私は平気よ。雪遊びは大好き。それに、ポニーさんややぎさんが居て仲良くなれたの」
「良かったね」
「ええ。ひゅうまも一緒だったらもっと良かったのにね」
「ぼくは嫌だよ」
ハナはそれから旅行中の出来事をぼくに聞かせてくれた。
「そうだ、ハナに話したいことがあるんだ」
ハナの旅行話が一区切りした時にぼくは切り出した。
「なあに?」
「少し長くなるから今じゃなくていいよ」
「平気よ。話して」
ぼくはハナにコロおじさんから聞いたミーコさんやチーコさん、デメさんのことを話した。
ハナは驚いていたが遠い昔の出来事として聞いたようで実感がないみたいだった。だけど、自分の子供たちはみんな幸せだと感謝していた。
そして同じ母親としてミーコさん、チーコさん、デメさんのために泣いていた。
「こんな話を聞かされて嫌じゃなかった」
「私は手術をされて二度と子供が生めなくなって悲しかった。お父さんやお母さんを少し恨んだわ。でも、話を聞いてすっきりした。話してくれてありがとう」
これでコロさんから引き継いだぼくの役目は終わった。お母さんが帰って来て、ぼくは一緒に母屋の中に入った。
「お母さん、ぼくをこの家に貰って良かった?」
お母さんは何も答えてくれなかったけれど、優しく頭を撫でてくれた。
「お母さん、ぼくはお母さんの子で幸せだよ」
お母さんはにこにこしていた。
ぼくは日当たりが良い縁側の寝床で横になった。そして眠くなったので丸くなった。そして楽しい夢を見た。
おわり