ぼくは1991年に生まれ、まだ小さい時にお母さんに引き取られた。だから前の家のことは殆ど覚えていない。
新しい家には、クロさんとチョコ姉さんが既に暮らしていた。そして外の小屋でコロおじさんが暮らしていた。
その頃の家は物置と離れは今のままだけれど、母屋は立て直しをされる前で古くて小さな2間の家だった。
コロおじさんの外の小屋はハナが使っている物だ。でも当時は色が違っていた。
チョコ姉さんは三色の綺麗な毛並みをしていたけれど片目がなかった。ぼくにはいつも冷たくて怖かった。
クロさんの方は親切でぼくをよく庇ってくれた。名前の通りに頭から尻尾まで真っ黒でお腹と手足だけが白かった。
物知りのコロおじさんはハナよりも毛がふさふさしていてクリーム色で大きかった。ぼくがどんな質問をしても直ぐに答えてくれた。
ぼくは母屋で暮らし始めた。クロさんは優しかったけれどチョコ姉さんからは意地悪をされた。
「そこはわたしの場所よ。どいて」とか
「それはあなたのご飯じゃないわ」
とか言われ、酷い時には手を上げられた。
「チョコ、あまりいじめるなよ。ひゅうまだって家族の一員なんだから」
とクロさんは言ってくれた。でもチョコ姉さんの意地悪は止まらなかった。
そしてチョコ姉さんの意地悪がエスカレートするので、ぼくは夜になると母屋から出されて離れで暮らすようになった。
離れはお兄さんとお姉さんが子供部屋に使っていたらしいけれど、二人とも使わなくなって荷物置き場になっていた。
最初は寂しかったけれど慣れたら気楽だった。昼間は外でも母屋でも遊べたし、離れの窓にはぼく専用の入り口があって出入りも自由だった。
ぼくが離れで暮らすようになるとチョコ姉さんはぼくに意地悪をしなくなった。でも仲良くはなれなかった。
ぼくが来た翌年、クロさんが亡くなってしまった。夜になっても帰って来ないのでお母さんが翌日になって家の周りを探すとクロさんが倒れて苦しんでいたらしい。
まだ息があったので病院に連れて行かれたけれど、毒を食べたようで手の施しようがなく、痛みを緩和して貰っただけで家に戻って来た。
「チョコ、ひゅうまと仲良くしろよ」
クロさんはそう言い残して亡くなった。
ぼくは悲しかった。そしてそれ以上にチョコ姉さんは悲しがっていた。血は繋がっていないけれど仲の良い兄妹だった。
コロおじさんの話だと、クロさんはチョコ姉さんがこの家に来た時には去勢をされていたけれど、本当は二人とも好き合っていたらしい。
クロさんが亡くなってからチョコ姉さんはぼくに優しくなって毛繕いなど面倒を見てくれるようになった。
ある日、コロおじさんが道路の反対側にぼくの本当の母親が住んでいると教えてくれた。コロおじさんは散歩中にお母さんから聞いたらしい。
でも母親はぼくと全然似ていないようだった。ぼくの父親は誰だか分からない流れ者で、ぼくはその父親に似ているらしかった。
家の前の細い通りを進むと大きな道路がある。その道路の反対側の少し先にぼくの本当の母親がいる。ぼくは会ってみたくなった。