ハナは五人の母親になった。生まれたばかりの時にはぐったりとしていた子供もいたけれどハナは大事に育てた。そしてみんな元気に育った。
「ひゅうま、見て見て。この子たちが目を開けてちゃんと歩けるようになったのよ」
ハナはまだ目が開いたばかりの子供たちをぼくに見せた。悔しいけれど子供たちはみんな可愛かった。
「半分がハナで半分があいつに似ているね」
「そうなの。でも、イタズラするから困っちゃうわ」
子供たちはじゃれ合ったり花壇に入ったりして遊んでいた。
「早く大きくならないかな。そして、みんなでお散歩に行きたいな」
ハナは子供たちといつまでも一緒にいられると思っていた。ぼくはそうではないと思った。
「ハナ、ぼくやキミがそうだったように、子供たちもいつかこの家から出て行くことになると思うよ」
「えっ、そんなことないわよ。でも、そうだったらどうしよう」
ハナは動揺したが、子供たちは何も分からずにハナに抱きついて来た。
そしてそれは現実のこととなった。子供たちはまだ小さい内に家を出ることになった。
「ハナ、ごめんなさいね。大きくなればそれだけ別れが辛くなるから」
とお母さんはハナに謝った。ハナは覚悟をしたようだった。
二人の子供は直ぐに貰い手が決まった。お母さんの知り合いだった。そして残りの三人は獣医師会が主催の里親探しの会に連れて行かれることになった。
里親探しの会がある日になった。一人は前日に、一人が朝早く連れて行かれた。お母さんは残りの子供たちを時間までハナと遊ばせていた。
「ハナ、これでお別れなの。みんな新しい家に行くのよ。ごめんなさい」
お母さんと他の家族が残りの三人を自動車に乗せた。
「行ってらっしゃい。みんな元気でね」
「バイバイ~」
堪えながらハナは送り出し、まだ小さい子供たちは意味が分からず無邪気に喜んでいる。ハナは子供たちを不安にさせないように静かに見送った。
子供たちを乗せた自動車が見えなくなるとハナは空を見上げて泣き出した。ぼくはハナが可哀想に思えた。
「一人はお母さんの知り合いの家に貰われたから仕方がないけれど、他の子は簡単に里親なんて見付からないよ。また戻って来るよ」
ぼくはそう声を掛けたけれどハナの子供たちは誰も戻って来なかった。
ハナの子供たちは人気があり、会が始まって直ぐに里親が見付かったようだった。夜になるとハナは子供が恋しくて泣くようになった。
そんな夜が何日か続いた。
しばらくしてお母さんの知り合いがハナの一人の子供と一緒にやって来た。ハナは突然の里帰りに驚いた。
「お母さん。ぼくだよ分かる?」
その子はハナに駆け寄った。
「分かるわよ。一日だって忘れたことがないもの」
ハナは嬉しくて泣きながら大きくなった子供の毛を小さい頃のように舐めた。夕方になるまで二人は久々に一緒に過ごした。
ぼくは少しうらやましかった。