第3章 未来編:AI「MK-AT0027」の調査記録

第15話 直感の力と未知の可能性、タイムカプセルの謎


データログ2596年5月10日、記録開始

 

 私たちは、北海道にあるシェルターから二翼を持ったエアロポッドを使って飛び立った。これから旧文明の遺跡調査に向かう。この調査は東北地方から始まり、九州地方に向かって南下しながら進められる。しかし、隕石の襲来による津波で、かつての日本列島はほとんどが消えてしまっている。北海道以外の日本のシェルターは、全て破壊されてしまった。

 

 海を渡って本州の上空まで来ると、低空飛行のモードに切り替え、すぐに各種センサーによる調査を開始した。上空から東北地方の遺跡を調査し、必要に応じて着陸しての目視確認を行うことになっている。

 

「あっ、この反応は!」

 

 ユータがセンサーの特定の反応を見て声を上げました。

 

「何かあったのですか?」

 

「食用の植物の反応だよ。降りてみようよ」

 

「私たちの目的は遺跡調査です。自然に生えた食用植物の調査が目的ではありません」

 

「そんな硬いことを言うなよ。一度は枯れ果てた大地に、食用の植物が再生したんだ。遺跡ではないけど、食用植物の再生なら旧文明の遺物の発見じゃないか。せっかくだから試食しようぜ」 

 

「わかりました。念のため調べましょう」

 

 私たちはエアロポッドを地面に着陸させた。その反応源に向かうと、そこには驚くべきことに、いわゆる『春野菜』と言われていた一部の食用植物が群生していました。

 

「このような荒廃した環境で、どのようにしてこの植物が生き延び、群生したのでしょう。これは氷河期の終焉が近いということですね」

 

 私がユータにそう言うと、ユータはその植物を地面から抜いて食べ始めている。

 

「えっ、氷河期の終わりだって? 確かに、食用の植物が自然に生えるようになれば、外で暮らせる日も近いかもしれないな。しかし、これは生だと不味いな。調理すれば食べられるから、少し収穫するか」

 

「食糧なら十分に持って来ていますよ」

 

「いいや。シェルター内で生産された食糧より、自然の植物を調理して、俺は酒のつまみにしたいね」

 

「私は食事をしないので理解できません。しかし、あなたがそうしたいのであればご自由に」

 

「ああ、そうさせて貰うよ。それと、ちょっと実験をしていいかな?」

 

「何をですか?」

 

「ミキが用意してくれた俺の食糧の中に、色々な種子があるじゃん。それがこの土地で育たないか試してみたいんだ」

 

「この土地で栽培をするのですか? 将来的にはとても有益ですが、今回の私たちの目的からは大きく外れています」

 

「それはそうだけど、九州まで調査して帰るころには秋だろ? そうしたら秋の植物を収穫してシェルターに持って帰れるかもしれないじゃん。長い旅なんだからさ、帰りのお楽しみの種を蒔いておくのさ」

 

 彼が目を輝かせながらそう答えた。

 

 

データログ終了

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データログ2596年6月14日、記録開始

 

 私とユータは、北関東の調査を終え、東京近郊にエアロポッドを着陸させた。これからのベースとなる場所だ。この辺りの汚染が酷かった場所だが、過去数百年の変化によって、私たちが活動できる状態となっていた。

 

「次はこの座標で大学跡地らしい場所がある。調査してみよう」

 

 ユータが操作パネルから情報を呼び出す。

 

 ユータは直感的に何かを探し出す能力に優れていた。私たちはその情報に従い、大学跡地に向かった。壊れた記念碑の下に小さな保管庫のような物が見えた。

 

「これは旧文明の人間が残した、未来へのタイムカプセルじゃないか?」

 

 ユータがそう言った。

 

 それはとても堅固な作りで、何世紀もの時間を経ても形を保っていた。私たちはその保管庫を掘り起こした。

 

「これは驚くべき発見です。研究者澄川瑛大の名前が記されています。この記念碑自体が彼の死を悼んで作られたようですね」

 

 私はこの発見が、今回の遺跡調査の目的に十分に見合うものだと確信した。

 

「なるほど、じゃあ開けてみようか」

 

 ユータは何の迷いもなく、アナログなダイヤル式のロックを解除し、タイムカプセルと呼ぶべき物の蓋を開けた。ロックがされていなかったのだろうか?

 

 中からは書類と写真、そしてかつてスマートフォンと呼ばれていた一台のデバイスが出てきた。書類は澄川瑛大の著書で、写真には多くの人物が映っていた。そして、驚くべきことに、そのデバイスは状態が良かった。

 

 私はその場でそのデバイスのリペアを試み、ほとんどは成功した。しかし、一部、読み取りが不可能な領域があった。

 

「このデバイスには、暗号化されていて読み取りができない領域があります。――この場で使用できるリソースでは無理でした。シェルターに戻ってから解析します」

 

 私は解析にいくつかの試みを重ねたが、結局断念した。

 

「俺に貸してみろ」

 

 ユータはそう言ってデバイスを手に取った。

 

 何が起こるかと考えた瞬間、彼がパスワードを解読した。そのパスワードは「ILOVEYOU」だった。

 

「すごい。どうして――。ユータ、あなたは、なぜ、パスワードを知っているのです。これはあなたの特殊なスキルですか?」

 

 私は彼の能力を理解できなかった。

 

「直感が働くんだ。俺は選択肢を見た瞬間、正解が分かる。さっきのダイヤル式のロックもそうだよ」

 

 ユータは笑顔で答えた。

 

 私は遺跡調査の同行者を候補者リストから選んだ際、ユータに難解なコードを瞬間的に解読するスキルがあることに目をつけた。それは卓越した分析能力だと考えたが、全く違っていた。彼は分析を一切せずに解答を導いた。この瞬間、ヒューマノイドの可能性がまだまだ未知数であることを理解した。そして、今回の発見以上に、ユータという存在の期待値が、私の中で大きく上昇した。

 

 

データログ終了

  

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