20XX年9月3日
私、新谷真希は澄川先生に尋ねた。京都のホテルのロビーで、早朝から待ち合わせしていた。先生はひげも剃らずに現れた。きっと昨夜は飲み歩いていたんだ。
「今日はどこに行くんですか?」
「今日はちょっと特別な場所に行く。伏見にある小さな神社だ」
先生がにっこりと笑って言った。
「伏見……あ、伏見稲荷大社ですか?」
「いやいや、そんな有名なところじゃない。もっとひっそりとした神社だ」
電車に乗って伏見に向かった。到着すると、先生は私を連れて、ちょっと外れたところにある小さな神社へと歩いていった。
神社に到着すると、宮司さんが出迎えてくれた。
「澄川先生、お久しぶりです。お連れは新しい助手さんですか?」
「お久しぶり、宮司さん。彼女は新しく助手になった新谷真希ちゃん。解読を手伝って貰おうと思っているんだ」
「はじめまして、新谷真希です。よろしくお願いします」
「はい、どうぞよろしく」
宮司さんは私たちを中に案内して、古い書簡を見せてくれた。書簡には2本の線を交差させて、魚のような模様と記号のようなモノが書かれていた。
「これか、新しく見つかった書簡は。これが見たかったんだ」
先生はいつになく真面目な顔になった。
「これは……?」
私には意味が全くわからなかった。
「これが何か、真希ちゃん、わかるか?」
私はその紙を見つめた。暗号とか、一体何なんだろう。でも、答えは出ない。
「先生、正直に言うと、私、これが何なのかわからないです」
「え、そうなの? 魚がキリスト教を意味しているのはわかるよね?」
私は先生に向かって首を横に振る。
「実は、面接でのクイズは、全部勘で答えたんです。全問正解はまぐれです。私には考古学に役立つ知識なんてなくて……。すみません」
一瞬、先生の顔に驚きが浮かんだ。でもすぐに笑顔に戻った。
「まあ、それもいいよ。じゃあ、ここで悩んでいても仕方ないから、昼食を食べに行こうか」
二人で昼食を取ることになった先生と私は、伏見の街を歩きながら、どこかいいお店を探した。
「ほら、ここどう? 和食と洋食、どっちがいい?」
先生が見つけたのは、2軒並んだちょっとレトロな和食と洋食のお店。
「いいですね。きっと今日は和食の日替わりが美味しいです。こちらに入りましょう」
私も賛成して、二人で和食のお店に入った。メニューを見て、二人とも日替わりを注文した。
お冷を飲みながら、先生が突然硬貨をテーブルに並べた。
「真希ちゃん、和食にして正解だったね。その勘がまぐれか確かめさせてくれるかな。この中でどれが一番古い硬貨かな?」
「え、これは……、この硬貨が一番古いと思います」
私は硬貨を見つめ、直感で一つを指した。
「おお、正解! ギャンブルをすれば大儲けできるね」
先生が笑った。その笑顔を見て、ちょっと安心した。でも、心の中ではまだ疑問が渦巻いていた。こんな勘で本当に何か役に立てるのか、それともただの偶然なのか。私の勘は当たる時には当たるが、外れる時には大外れする。
「いえ、実は欲が絡むと、私の勘は当たらないんです」
なんとなく、そう言ってしまった。
先生はちょっと考え込んで、少しすると何かを閃いたようだった。
「そうか、それもまた面白い。じゃあ、試しに質問するね」
先生はメモ帳を取り出して、何かを書きながら、私に二択や三択の質問を投げかけてきた。記号の意味が上下や左右のどれかや、番号を選ぶ質問だった。私は次々に直感で答える。
「先生、何か役に立たそうですか?」
「最高だよ、真希ちゃん。これで謎が解けた」
先生はそう言って、席を立った。
再び神社に戻った私たちは、敷地の奥に進んだ。先生の目的は、そこにある古い石灯籠が幾つも並んでいる。先生は方角と距離を確認しながら、一つ一つの灯籠を確認する。
「ここだ!」
「これですか?」
先生が指摘する灯籠は他と比べて何も特別なことはないように見えた。
「この灯籠が、きっとタイムカプセルだ」
先生が言った。
「え、タイムカプセル?」
「そう、真希ちゃんが昼食中に解いたのは、書簡に書かれていた謎の隠し場所。この灯籠の中に何かあるはずだ。真希ちゃんは、ここにある灯籠の中でどれが当たりだと思う?」
「やっぱりこれだと思います」
私の勘もそう言っていた。
「じゃあ、宮司さんに話して、明日確かめようか」
無精ひげが伸びた先生の笑顔がなぜか素敵に見えた。
今日の一言:
どうやら採用の際に私は相当の考古学の知識があると思われたらしい。そんな知識がないと判明してしまったが、先生は優しかった。あの灯籠が当たりでありますように。
次の日の予定:
明日は灯籠の調査を行うことになった。