第2章 僕が過ごした彼女との時間

第6話改 僕の熱くて冷めたコト(2)


 午後からは、スキー場の様々なコースを滑りながら、パークエリアのアイテムも楽しんだ。雪姫が僕のように、キッカーからジャンプをしたい、と言い出した時には驚いた。

 僕は振られた先輩からサークルの活動でスノーボードを習っていた。だからスノーボードの知識もあり、ジャンプの基本を雪姫に教えた。彼女は運動神経が抜群で、すぐにジャンプが上達した。やり方を教えただけで、ボードを掴むグラブという技や、半回転、一回転ができるようになってしまった。

 

「アキラ、どうだった?」

 

「バッチリ決まっていたよ。回転もボードの掴み方もとても綺麗だった」

 

「ありがとう。アキラが、やり方を教えてくれたからだよ。とても楽しい!」

 

「少し教えただけで、こんなに上手くなるなんて、キミの上達の早さには驚いたよ。何か他のスポーツをしているの? 体操やトランポリンとか」

 

「ううん。何もしてないよ。あっ、似たような空を飛ぶ遊びは、友達としたことがある」

 

(スカイダイビングでもしたことがあるのかな?)

 

 パークエリアでジャンプをする人は、僕たち以外にも何人かいた。自分たちが飛んだ後、僕たちは他の人のジャンプをしばらく見ていた。

 

「やっぱり、アキラのジャンプが一番だね。アキラのは、他の人のジャンプと全然違う」

 

「ありがとう。僕は何年か前まで、結構本格的にフリースキーをしていたからね。それより、ジャンプができる人を探していたなら、他の人には声をかけないの?」

 

「アキラがいなかったら声をかけたと思う。アキラが見つかったから、もう十分だよ」

 

「探していたのは一人だけだったの?」

 

「そうなの。一人見つかれば良かったの」

 

「ふーん、当てにされてもなぁ……。目的や理由を聞いてないから、良いも悪いも了承はできないよ」

 

「ごめんなさい。今は一緒に滑れれば、それだけで十分なの……」

 

 彼女との時間は楽しい。しかし、リフトに乗っている間や休憩時にどれだけ話しても、人探しの理由だけは教えてもらえなかった。僕は何かの目的のためにキープされている。彼女が嘘をついているとは感じないが、明らかに何かを隠している。

 

 実はテレビのドッキリ番組で、どこかに隠しカメラがあるのかと疑ったりもした。しかしカメラで撮られている気配も、種明かしがされる様子もない。初めて会った相手に、理由もなく一緒に滑りたいと言われても理解できない。

 

(一体、彼女は僕をどうしたいのだろう? 正直に教えてくれれば、協力することだってできるのに……)

 

 クリスマスに彼女と出会えたことは嬉しかった。一緒に滑る時間は楽しい。しかし、彼女への警戒心は消えなかった。彼女のどの部分が本心で、どの部分が演技なのか、僕にはわからない。リフトの乗車中、僕たちの会話は次第に減っていった。

 

(もしかしたら、帰るときに何かの宣伝のチラシでも渡されるのだろうか?)

 

 リフトの終了時間が近づいても、彼女は僕に近づいた真の理由を明かそうとしない。僕から彼女に次の約束を切り出すこともなかった。

 最後の一本となるリフトに乗っているときだった。彼女は静かに話しかけてきた。

 

「……ねえ、アキラ……今日はどうだった?」

 

「楽しかったよ」

 

「このスキー場に明日も来る?」

 

「うん、スキー場には来るよ」

 

「もう……私とは一緒に滑りたくない?」

 

「そんなことはないよ……。でも……僕に近づく理由があるなら、正直に教えてほしい。ジャンプができる人を探していたと言われても、その理由もわからないまま一緒に滑るのは……何か嫌だよ」

 

「そうよね。でも、私だけの判断では難しいの。明日、ちゃんと説明するから、また会ってくれる?」

 

 彼女の真剣な表情を見て、僕はしばらく考え込んだ。

 

「……いいよ、わかった」

 

「アキラ、ありがとう」

 

 リフトを降りた後、僕たちはそれぞれのスキーとスノーボードで一緒に滑った。少しでも長く滑れるように、ゆっくり大きくターンをして山麓まで下りた。

 

(嬉しいけれども、どこか気が晴れない……)

 

 晴れた空の下、赤い夕日が山の向こうへと沈もうとしている。クリスマスのこの特別な日に、こんなに素敵な女性と出会うなんて思ってもみなかった。不思議な縁を感じる。リフト券の売り場の前で、僕たちは次の日の待ち合わせを約束し、それから別れた。

 

 

  つづく

 

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