三人が練習するレーンの横は、より大きいジャンプ台だった。そこでは男女混じった年齢もレベルもバラつきのある十数名が、ジャンプ台の上とプールサイドにいるキャップを被りサングラスを掛けたコーチからレッスンを受けていた。
ツキハがプールサイド側にいるコーチの傍に近付いて行った。
「ねぇ、見てた?さっき知り合った子、私と同い年、スゴイでしょ」
ツキハが自慢気に言った。
「ああ、凄いな。普段はどこで練習をしているんだ?」
そのコーチは視線をジャンプ台に向けたままツキハに応えた。
「どこで、じゃないのよ。今日がスキーもジャンプも初めてなんだって!」
興奮気味にツキハが続ける。
「初めて?本当か??」
今度はツキハをしっかり見てコーチは応えた。
「ほら、飛ぶよ!」
まるで憧れの存在でも見るかのようにツキハはヒマリを見ていた。
ジャンプ台の先端で勢いよくヒマリが踏み切った。ヒマリは更に高く飛び、ゆっくりと2回転をして着水した。
通常の2回転はコマのように回転が速いが、ヒマリは滞空時間が長く、回転速度が若干遅かった。
「720、凄いなんてものじゃないな!」
コーチは感嘆した。
「でしょ。私が教えたんだよ。じゃあ、休憩するね、お父さん」
そう言ってツキハは笑顔でその場を後にした。
つづく