3.3 あの時の事故の後で ④

 入退院を繰り返すようになったツキハの母の願いは、夫がワールドカップで活躍してオリンピックに出場することだった。このため、首都圏の郊外にある実家に近い病院に入院し、ツキハもその実家に預けられた。

 

 ワールドカップで入賞し、オリンピックの出場権を獲得したツキハの父が帰国すると、ツキハの母は春まで持たないと医師から宣告されていた。最後は一緒に居たいと家族みんなで思い、ツキハの父も海外遠征を控え、妻の実家に泊まり、ツキハと病院に通っていた。家族が揃ったことが支えになっているためか、それからのツキハの母の容態は安定していた。

 

 ある日、首都圏は前夜から数十年ぶりの大雪だった。見渡す限りが雪で覆われ、道路も雪で歩道との境界さえ分からない状況になっていた。雪に慣れていない土地のため、除雪も間に合っておらず、道路を走る車は少ない。ノーマルタイヤで動けなくなった車が所々に乗り捨てられている。

 そんな日に病院からツキハの母の容態が急変したと実家に電話が掛かって来た。

 

 

  つづく

 

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