「あの事故の相手がヒマリくんなんだよ」
「ヒマリくんが事故の相手?そうだったの。私、全然知らなかった。私も車に乗っていたのに・・・」
「無理もない。一瞬の出来事だったし、事故の処理からツキハを遠ざけたのは私だから」
「だったら去年のウォータージャンプで教えてくれれば良かったのに、どうして?あの事故では相手に大きな怪我をさせていないって、お父さん言ってたじゃない。それも違うの?」
ツキハの顔は少し青ざめていた。
ツキハの問いに父は再び目を逸らし、暫く何も答えなかった。やがて意を決したようにツキハの顔をしっかりと見た。
「実は、もう一つ、ツキハに黙っていたことがある」
そう言って、ツキハの父は当時の出来事を静かに話し始めた。
ツキハの父がワールドカップで活躍するようになった頃、ツキハの母は体調を崩した。病院で精密検査を受けるとステージが進んだ乳ガンだった。
つづく