野良猫となって小さな神社に住み着いた三毛猫は、ある深夜に神社を訪ねた人間が境内のしめ縄の巻かれた大木に向かって、何かブツブツ呟いているのを聞いた。
『なぜ、社殿への参拝ではないのだろう?』
三毛猫は近くまで寄って様子を見ていた。
『あれは丑の刻参りだよ』
三毛猫が声のする方を振り向くと狐が居た。
『深夜に誰にも見られず、恨みを七日続けて唱えると、その者の恨みが果たされるという言い伝えがあるんだよ。そんな便利で都合の良いものではないのにね』
狐は続けて、そう教えてくれた。
『恨みが果たされる?』
三毛猫は狐に尋ねた。
『ああ、恨みを果たしてやるんだよ。お前も随分と恨みを持っていそうだね?』
狐はそう訊ね返した。
『恨んでいる。わたしや子どもを捨てた人間のことを。恨みを果たしたい』
三毛猫が答えた。
『それには代償が必要だ。あの人間のように代償もなく、恨みだけブツブツ言っても、そんなことに付き合っている暇はない。お前は代償として捧げられるものがあるのかい?』
狐は薄っすらと笑い、三毛猫にそう訊ねた。
つづく