3.3 あの時の事故の後で ⑤

 実家から病院まではそう遠くない。それにツキハの父は雪道の運転に慣れていた。一秒でも早く病院に着きたい。その思いでツキハの父は車を運転していた。助手席にいるツキハはずっと下を向き、「早く会いたい」と泣いている。

 

 雪道でなければスピードオーバーではない速度だった。ゆったり曲がった下り坂だったが、障害物のように乗り捨てられた車がなければ、決して見通しが悪い道路ではなかった。

 

 ただ、悪条件が重なって、ツキハの父は、雪で覆われた道路を横断しようとしている小さな子どもに気付くのが僅かに遅れた。避けようとハンドルを切ったが、重い雪のためにタイヤが滑った。

 

 ハンドル操作で正面からの衝突は回避できたが、車体が外側に膨らんで避け切ることができなかった。その子どもは運転席のドアの辺りで跳ね飛ばされた。それがヒマリだった。

 

 ヒマリが運ばれた病院はツキハの母が入院している病院と同じだった。幸いヒマリには大きな外傷がなかった。跳ね飛ばされて後方に倒れた時に雪がクッションになったことが原因だと思われた。ただ、事故のショックで意識を失ったまま目を覚まさず、元々病気を抱えていた心臓がかなり弱っていた。

 

 

  つづく

 

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