6.1 棲み処を失ったカヤネズミの家族 ①

 部屋の外に出たヒマリは、通路の窓から外を眺めた。そのヒマリの目は、暗闇に光る猫の瞳のように瞳孔が大きくなっている。

 

 新月の夜、ヒマリは決まって怖い夢を見る。そして鬼門が開くと言われる丑三つ時の午前2時頃に、ヒマリは短い時間だったが人間から白い子猫の姿になってしまう。

 そのことは親にもユウヤにも話していない。ユウヤはヒマリが左耳で動物や鳥の声を聞くことができると信じてくれた。だからきっとユウヤなら、このことも信じてくれると思っていた。だけどヒマリにとっては、親よりもユウヤにこそ知られたくない秘密だった。ヒマリはユウヤに嫌われたくなかった。

 

 いつもは怖い夢を見た後で猫の姿で布団に潜っていたが、今夜はツキハのことがあって怖いよりも悲しかった。このため部屋の外に出て、外を見ながら大きく深呼吸をした。そしてツキハの母から貰った心臓の鼓動を確かめるように、そっと胸に手を当てた。

 ヒマリは気持ちが落ち着いたら、完全に猫の姿になってしまう前に部屋に戻り、いつものように身体が元に戻るまで布団の中でじっとしているつもりだった。

 

 外は星明りしかない闇で覆われたゲレンデだったが、ヒマリには動物たちの姿が見えた。ウサギや鹿、そしてオコジョの姿もあって、動物たちは何か慌てているようだった。スキー場の奥にある森の方が特に騒がしかった。

 

 

  つづく

 

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